自分を責めないでください <流産したあなたへ>

「流産」というのは、悲しくつらくさびしいものです。
あなたは、もう母親になれないのではないかというような気分になり、何をどう説明されても気持ちが晴れることはないかもしれません。ご主人や周りのご家族もかなりショックを受けたことでしょう。

さぞ、つらい体験だったと思いますが、是非とも知っていただきたいことがあります。
それは、流産とはそもそもどういうメカニズムで起こるのかということと、将来についてどう考えたらよいのだろうかということです。

卵子と精子が結合して受精卵ができて、子宮に着床して受精卵が発育していって、胎児と胎盤に分化していくのが妊娠初期のメカニズムであることはおそらくご承知のことと思います。
しかし、受精卵のうち、無事に出産まで行くのはわずか2割から3割に過ぎないという事実はおそらく知らなかったのではないでしょうか。実は受精卵の7割以上が流産しているのです。そのうちの大半は妊娠と気がつかないうちに通常の月経だと思っている中に流産しています。これを潜伏流産といいます。これは治療の必要は全くなく、妊娠回数にも含めません。そして、「おめでた」(妊娠初期)と診断がついた後に流産するのは約13%なのです。そして、妊娠中期流産は約1%ありますし、妊娠後期の死産は0.5%弱あります。
このように、受精卵から赤ちゃんの誕生までの間には、長いプロセスがあるのです。そして、多くの受精卵がドロップアウトしています。それを自然流産というのです。すなわち、自然界における一種の自然淘汰という見方もできます。なぜならば、流産する受精卵はそのほとんどが異常卵なのです。つまり、流産の原因はほとんどが受精卵側にあります。昔は、流産するとお嫁さんが責められたりすることがあってかわいそうでした。しかし、今では、流産の原因は妊婦さん自身でもご主人でもなく、ほとんどがたまたま偶然に発生した受精卵の異常であることが医学的に明確に立証されているのです。勿論、体質や遺伝も関係ありません。

流産したあなたは何も悪くないのです。ご主人にも責任はありません。人生は常にラッキーとは限りません。水害に遭うことも地震に見舞われることさえあります。不運にも流産したのです。

しかし、ここから後の考え方が大切です。
流産したということは、とにかく妊娠はできたということです。不妊症に悩んでいる方も多いのです。一生懸命治療してもとうとう妊娠できずにあきらめる方も多いのです。流産は、一種のフライイングのようなことです。次は大丈夫ですから、未来に希望を持って明るくいきましょう。悪いことは続かないものです。実際に、流産してもその後に元気なお子さんに恵まれている方のほうが圧倒的に多いのです。

決して、ご自分を責めたりしないでください。
どうか、明るい未来を信じてください。
流産の向こう側に希望が見えてくると思います。

平成17年5月10日(記)

追記:不育症といって流産を繰り返す方が稀にはいらっしゃいますが、それも今日では検査が確立されており、治療法もあります。私が大学病院勤務時代に担当した患者さんで5回連続流産した方でも、治療によってその後に3人もの子宝に恵まれた方もいらっしゃいました。