前回が帝王切開だった方には、次も帝王切開をお勧めしています

上のお子さんのお産の際に何らかの事情で帝王切開になった方が、次のお産こそ自然に生んでみたいと希望されるのはとてもよくわかります。素直な感情だと思います。しかし、全ての方が安全に自然分娩できればよいのですが、母子共に危険になることがあります。それは、子宮破裂という突発的致命的合併症があるからです。下記の論文は、昨年米国の医学誌に発表されたものです。

「帝王切開後の再出産における子宮破裂、自然分娩では帝王切開の3倍に」

 子宮破裂は、分娩に伴う重大な合併症の一つ。頻度は極めて低いものの、子宮破裂を起こした母体の3人に一人は今でも命を落としている。胎児が死亡したり、生まれた子供に重い障害が残ることもある。帝王切開は子宮筋にメスを入れるため、次のお産で子宮破裂を起こすリスクが高くなることが知られている。
 ただし、その頻度は数百人に一人であり、帝王切開を受けていない妊婦より高いとはいえ、まれな合併症であることに変わりはない。そのため、帝王切開を受けた人は以後の出産をすべて帝王切開とすべきか、それとも自然分娩を試みるべきかについては、医師の間でも見解が分かれていた。
 米国Washington大学女性健康調査センターのMona Lydon-Rochelle氏らは、ワシントン州の市民病院に登録された産婦のデータから、1987年から1996年の間に最初の妊娠で身ごもった子を帝王切開で出産し、再度妊娠した女性2万95人を抽出。2度目の妊娠で身ごもった子を、帝王切開で産んだか自然分娩で産んだかで、子宮破裂を起こした頻度がどの程度違うかを調べた。なお、1度目または2度目の妊娠が、双胎以上のケースは除いた。
 その結果、2度目も帝王切開で出産した人では、子宮破裂を起こした頻度が0.16%となった。ところが、2度目の出産が自然分娩だったケースでは、子宮破裂の頻度が0.52%と、およそ3倍になることがわかった。
 自然分娩がうまく行かず、陣痛促進剤を使った場合、子宮破裂の頻度はさらに高くなった。ことにプロスタグランジン製剤を用いたケースでは、子宮破裂の頻度が2.45%になり、2度目も帝王切開した場合よりリスクが約15倍高くなることが判明した。
 選択権は妊婦本人が持つべきである。
引用 〜 New England Journal of Medicine(NEJM)7月5日号 2007 より〜


  上記の論文の著者は、 「選択権は妊婦本人が持つべきである。」と述べていますが、私はそうは思いません。なぜなら、本人に判断させるというのは、いかにも民主的で患者さんの気持ちを尊重しているように見えますが、その実本人に責任をなすりつけているように感じるからです。産科医として、医学的判断を妊婦さんにきちんと伝えるほうが本当の意味で親切なのではないでしょうか。ですから、私は「子宮破裂という合併症はまれですが、もし発生したら母子共に命にかかわりますから、安全策として予定帝王切開をお勧めします。」と説明しています。


2008(平成20年)6月4日:記