男女産み分けの是非について

妊婦健診の際に、赤ちゃんの性別を知りたい方は多くいらっしゃいますが、産むまで楽しみにしていたいから性別は教えないで欲しいという方も時々いらっしゃいます。ですから、私は訊かれたらお教えしますが、訊かれないのに性別を口走ったりしないように心がけています。

ところで、私がまだ病院の勤務医のころのことですが、こんなことがありました。
ある経産婦さんがごく普通に「性別を教えてください」と訊かれましたので、「はい、男の子ですよ。ほら、ここに証拠のタマタマが映ってるね。」って、普通にお教えしました。そしたら、驚きの言葉が返ってきました。「女の子が欲しかったので、おろしてください。」というのです。勿論、説得しましたが、なかなかたいへんでした。

男の子が欲しいとか、女の子が欲しいとか、お気持ちはよ〜くわかりますよ。私自身、男の子がふたり生まれた後は、女の子が生まれればいいなぁと思いましたからね。
しかし、希望と違うからといって中絶を選択するというのはあまりにも乱暴で命を粗末に扱っていると思いませんか。母体保護法に照らしても、そのようなことは正当な理由には全くならないということは言うまでもありません。

それほど極端でなくても、あらかじめ希望する性を選びたいということで、人工的な操作で男女を産み分けたいという方もいますが、さていかがでしょうか。「ちょっと待ってください。」と、私は言いたくなります。
実際の男女産み分け法には、古来いろいろなことが試され、行われてきましたが、確実な方法はありません。唯一確実なのは、X染色体を含む精子とY染色体を含む精子を選別して人工受精する方法がありますが、病院で治療することになりますし、保険も利かずお金もかかり、自宅で気軽にできる方法ではありません。第一、日本産科婦人科学会は男女産み分けは倫理的に問題があるからと自主的に禁止しております。私のクリニックも、そのような命を選別するような医療は一切しておりません。
ところが、全国的に見ますと、ごく一部の病院ではある団体が販売している男女産み分けゼリーを推奨・宣伝しているようです。それは、男の子が欲しい場合はブルーゼリーを、女の子が欲しい場合にはピンクゼリーを膣内に入れてセックスするという方法です。たった4回分で約2万円も取られます。あまりに高額な上に、成功率は7〜8割に過ぎないのです。つまり、2〜3割は失敗するということです。それでも、そういう方法を希望する患者さんがいるというのは、情けないようにも思います。皆さんは、どう思われるでしょうか。

性別は運命だと、私は思うのです。
男の子であっても、女の子であっても、神様から授かった大切な命ではありませんか。わが子であっても親の所有物ではないわけですから、お宝を一生懸命お育てしようという、純粋な気持ちを大切にしていただきたいものです。

私の患者さんで、男の子が連続6人!!という方がいらっしゃいました。その方は、「この子達の将来のお嫁さんを自分の娘だと思って、倍にして可愛がってあげたいと思ってます。」とおっしゃっていたことを思い出しました。感動しました。

平成17年2月15日 記